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毎日新聞記事より

 毎日新聞によい記事がありました。無断転載します。

記者の目:原発を拒否した町が教えること=山下貴史(和歌山支局)

http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20110621ddm004070005000c.html

 ◇だまされた国民の責任も問う
 福島第1原発の事故を、かつて原発誘致に翻弄(ほんろう)された人々はどんな思いで見ているだろうか。私が勤務する和歌山は近い将来、大地震が予想されている。かつて和歌山でも誘致の是非をめぐっていくつもの町が揺れたが、京都大学の研究者らの助けもあり、ここに原発はない。「危険な原発はいらない」。理由は素朴であり、明快だ。

 ◇誘致が浮上し、親類も賛否二分
 和歌山県で特筆すべきは日高町と旧日置川町(現白浜町)の誘致拒否だろう。日高町では67年、当時の町長が原発構想を表明して以来、この問題がくすぶった。関西電力は88年、設置に向けた調査に伴う漁業補償金など約7億円を地元漁協に提示。漁協内は兄弟、親戚で賛否が割れ、結婚式、葬式、漁船の進水式に出ないなど人間関係がずたずたになった。反対運動を率いた漁師、濱一己さん(61)は「原発が安全なら、こんなこと(仲間内の争い)はない。関電は都会と田舎のおれらの命をてんびんにかけた」と憤る。

 旧日置川町では、児童のスクールバスの座席までも原発賛否で分かれた。反対派の西尾智朗氏(59)=現白浜町議会議長=によると、建設予定地はもともと民有地だったが「国定公園にして乱開発から守る」と町土地開発公社が73年に買収、町に転売した。町が関電と売買契約を結ぶと、土地を売った一人の男性が「裏切られた」と自殺した。遺族(78)は「おやじは町にだまされたことを恥と思っていた」と悔しさをにじませる。

 反対派に一貫しているのは「電気を大量消費する都会になぜ原発を建てないか」という疑問だ。京都大学原子炉実験所(大阪府熊取町)の小出裕章助教(61)や今中哲二助教(60)ら研究者たちもこの疑問を共有し、反対運動を支えた。

 小出さんは原子力が未来のエネルギーになると信じ、東北大学に進学した。だが、宮城県・女川原発建設に反対する運動に直面し、反原発に転じる。「原発は都会で引き受けられない危険なもので、送電線を敷くコストをかけても過疎地に建てる。それに気付いたら選択肢は一つ。そんなものは許せない」と思った。

 今中さんも原子力の未来を信じて東工大大学院に進んだが、新潟県柏崎刈羽原発の反対運動に参加した。「絶対安全で地元も潤う」という電力会社の理屈にうさん臭さを感じた。79年には米スリーマイル島原発事故が起き、安全性への懐疑は確信に変わった。

 2人は愛媛県・伊方原発の設置許可取り消し訴訟の原告弁護団に証人として協力し、研究者の立場から反原発を支持した。和歌山にも何度もビラ配りに訪れた。小出さんの論は明快だ。機械は時々壊れ、人は時々誤りを犯す。人の動かす原発が壊れるのは当然。原発は壊れると破局をもたらす--福島の事故は小出さんにとって想定内だった。しかし、世論は安全神話に支配され、「私のような意見はすべて無視され続けた」という。今は原発を止められなかった自分を責めている。だが、小出さんは国民の「だまされた責任」もあると言う。

 この言葉に、敗戦直後の1946年に、だまされた国民にも戦争責任があると断じた映画監督、伊丹万作のエッセー「戦争責任者の問題」を思い出した。伊丹は人情味あふれる「無法松の一生」の脚本を書く一方で、人間の本質を突く社会評論を残している。

 「『だまされていた』といって平気でいられる国民なら、おそらく今後も何度でもだまされるだろう。いや、現在でもすでに別のうそによってだまされ始めているにちがいない」(ちくま学芸文庫「伊丹万作エッセイ集」所収)

 「安全神話」を吹聴した国や電力会社が厳しく批判されるのは当然だが、だまされた国民の責任からも目を背けてはならないと思う。国民は政治を通じて、電源三法で多額の交付金を地方に配ってきた。その構造と安全神話が、原発周辺住民に危険と隣り合わせの生活を強いたからだ。

 ◇地方犠牲にした豊かさが幸せか
 濱さんは賛否で割れた漁協が、海で遭難した仲間の捜索で協力したことがあったと教えてくれた。遺体は1週間後に見つかった。「漁師はな、『板の一枚下地獄』と言うんや。そんな所で働くもんは皆仲良くせなあかん。町長、お前にこの気持ちが分かるか」。この言葉で町長は誘致推進を取りやめたという。

 原発の建設候補地だった場所は海に面した緑の岬だ。岬を見渡す海岸に立ち海を望んだ。地方を犠牲にして原発に依存し、豊かさにひたることが幸せなのか--。目指すべき社会の姿は、はっきりしていると思う。

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風知草:株価より汚染防止だ=山田孝男

http://mainichi.jp/select/seiji/fuchisou/news/20110620ddm002070081000c.html

 そろそろ原発以外の話題をとり上げたらどうかと心配してくださる向きもあるが、そうもいかない。福島原発震災は収束どころか、拡大の兆しが見える。この大事と無関係に政局を展望することはできない。

 京大原子炉実験所の小出裕章助教(61)といえば、いま最も注目されている反原発の論客の一人だ。原発が専門だが、名利を求めず、原発に警鐘を鳴らし続けてきた不屈の研究者として脚光を浴びている。

 その小出が16日、テレビ朝日の番組に登場し、こう発言して反響がひろがった。

 「東京電力の発表を見る限り、福島原発の原子炉は、ドロドロに溶けた核燃料が、圧力鍋のような容器の底を破ってコンクリートの土台にめり込み、地下へ沈みつつある。一刻も早く周辺の土中深く壁をめぐらせて地下ダムを築き、放射性物質に汚染された地下水の海洋流出を食い止めねばならない」

 さっそく政府高官に聞いてみると、いかにも地下ダムの建設を準備中だという。

 ところが、さらに取材すると、東電の反対で計画が宙に浮いている実態がわかった。原発担当の馬淵澄夫首相補佐官は小出助教と同じ危機感を抱き、地下ダム建設の発表を求めたが、東電が抵抗している。

 理由は資金だ。ダム建設に1000億円かかる。国が支払う保証はない。公表して東電の債務増と受け取られれば株価がまた下がり、株主総会を乗り切れぬというのである。

 筆者の手もとに、東電が政府に示した記者発表の対処方針と応答要領の写しがある。6月13日付で表題は「『地下バウンダリ』プレスについて」。バウンダリ(boundary)は境界壁、つまり地下ダムだ。プレスは記者発表をさしている。

 対処方針は5項目。要約すれば「馬淵補佐官ご指導の下、検討を進めているが、市場から債務超過と評価されたくないので詳細は内密に」だ。

 応答要領の中でも愚答の極みは「なぜ早く着工せぬ」という質問に対するもので、ぬけぬけとこう書いている。

 「地下水の流速は1日5センチメートルから10センチメートルなので、沿岸に達するまで1年以上の時間的猶予があると考えている」

 記者発表は14日のはずだったが、東電の株主総会(28日)の後へ先送りされた。

 福島原発の崩壊は続き、放射性物質による周辺の環境汚染が不気味に広がっている。株価の維持と汚染防止のどちらが大切か。その判断もつかない日本政財界の現状である。

 政府当局者の一人がこう言った。「あの(太平洋)戦争でなぜ、指導部が的確、着実に作戦を遂行できなかったか。いまは分かる気がします」

 誰も信じない、東電の「収束に向けた工程表」という大本営発表が続いている。

 菅直人を東条英機になぞらえる向きがある。万事に細かく部下を怒鳴るからだ。東条はサイパン島陥落で敗戦濃厚となった1944年7月退陣。後継首相の小磯国昭が8カ月半。さらに鈴木貫太郎に代わり、原爆を二つ落とされ、天皇の聖断を仰いで戦争は終わった。

 なぜ、早く停戦して戦禍の拡大を防げなかったか。無理筋の戦局打開案が飛び交い、常識が見失われ、国の意思決定が遅れたからだ。今と似ている。いま最も大事な課題は放射能汚染阻止だ。空論に惑わされず、核心へ集中するリーダーシップが求められている。(敬称略)(毎週月曜日掲載)
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by lumokurago | 2011-06-22 09:40 | 原発
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