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<貧困>は自己責任ではない

<貧困>は自己責任ではない

  11月19日午後6時30分から、東京都杉並区の阿佐ヶ谷市民講座実行委員会主催で湯浅誠さん(以下、私)の講演会が行われました。演題は「<貧困>は自己責任ではない」です。

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 湯浅誠さん

 11月19日午後6時30分から、東京都杉並区の阿佐ヶ谷市民講座実行委員会主催で湯浅誠さん(以下、私)の講演会が行われました。演題は「<貧困>は自己責任ではない」です。湯浅さんはNPO法人自立生活サポートセンターもやい・事務局長です。筆者は以前杉並区にある児童養護施設(親と暮らせない子どもたちの施設)で学習指導ボランティアとして活動していましたが、湯浅さんはそのサークルの代表を務めていたこともあります。

◇ ◇ ◇

2つの神話

 どういう切り口でお話ししようかと考えたのですが、ネットカフェを取り上げます。みなさん、「ネットカフェ難民」という言葉はご存じだと思います。「ネットカフェ難民」という報道は1年くらい前からだと思いますが、初めて相談に来たのは4年前でした。その時、新聞に「取り上げてほしい」と頼んだのですが、記事にしてくれませんでした。去年の秋以降、社会的に注目されるようになり、ようやく記事にしてくれる人が出てきました。ネットカフェに7年住んでいる人を2人知っていますから、2000年位から住み始めたんですね。ちょうどネットカフェが24時間営業を始めたころからです。10年以上家がない人が3割を占めています。日雇いを転々としている人たちの層と重なっており、若い人も中高年もいます。

 日本には2つの神話があったと思います。1つ目は働いていれば食っていける、2つ目は親がいるなら頼れるはずだというものです。「いやならもっとまともな仕事につけば」「くだらない意地を張ってないで親に頼れ」ということです。それは今どうなっているでしょうか?

働いていれば食べていけるはずでは?

 ここである例を話します。彼は自分では「このままでいい」と言っているので、人に連れられて相談に来ました。34歳で7年間そうやって暮らしています。はじめはフルキャストという派遣会社でスーパーアリーナの設営の仕事を固定でやっており、月12万の収入がありました。ところがフルキャストアドバンスという子会社に転籍になってから収入が8万に落ちました。暮らしていけないので他にもいろいろと登録したのですが、アリーナの仕事が固定されていて断れないので、仕事がだぶれば断らざるをえず、そのうち仕事が回ってこなくなりました。8万の仕事にしがみつかなければならない状況で、ネットカフェに毎日は泊まれないので週に3日だけ泊まって、後の日は、夜は凍死しないように起きて町を歩き、始発の電車に乗って睡眠を取るのです。彼に「生活保護しかない」と提案すると固辞します。「ずっとこのままでいいのですか?」と聞くと、「いや、もっと安定した仕事に就きたい」と言います。「このままでハローワークに通う体力・気力があるか?」と聞くと、「確かにない」と答えました。生活保護も一生受けるわけではなく、仕事を見つける間だけと説得し、生活保護の申請をしてアパートを借りました。この人の場合はうまくいきすぎた位で、2ヶ月で警備の仕事をみつけることができて、生保を廃止しました。

 私も派遣会社のエム・クルーで日雇い派遣の仕事をやってみました。倒産したサウナを壊した所からガレキを運ぶ仕事でした。日当は7700円です。朝5時半に出て、帰宅したのは8時半です。15時間かかっています。1日の収支計算をしてみると、交通費や食費などに1960円かかり、残りは5840円でした。もしレストボックスに泊まれば1880円、朝食・夕食に1000円として、仕事道具(軍手・カッター・安全靴・ヘルメット等)は自弁なので、手元には1000円か2000円位しか残りません。基本的に皆さんまじめな人なので、食費を切り詰めてお金をためようとしますが、腰を痛め仕事に行けなくなり、健康保険がなくて病院に行けないので、薬を買ったりしてためたお金が減り、結局アパート代をためられないのです。今まで自分でお金をためてアパートに入った人に会ったことはありません。

 厚労省が2007年8月に行った調査によると、「ネットカフェ難民」の平均月収は10万7000円で手元に残るお金は10000円、雇用保険未加入が30%、国民健康保険未加入が73%、借金が30%あります。

 借金といえばギャンブルか娯楽と思われていますが、彼らの借金の原因は病気、失業など生活苦なのです。生活が回っていかないから借金をすることになるのであって、借金は日雇い派遣のもたらす結果なのです。寮付きの工場で働けばいいと思われるかもしれませんが、実際は逆です。彼らは寮付きの工場でだめだった人たちなのです。

親に頼ればいいんじゃないの?

 親に頼ればいいと言われても、母子家庭が多いし、親がホームレスという場合もあります。私は19歳から児童養護施設の学習指導ボランティアをやっていましたが、普通高校に入るのは5年に1人しかいませんでした。(筆者注:児童養護施設の子どもたちは親には頼れず、家庭で育った子どもに比べ非常に未熟なまま中卒・高卒で働き始め、仕事を転々とし、住む場所もなくなり、行方知れずになってしまう場合が少なくない)。

 「ネットカフェ難民」で親に相談できると答えたのはたった2.7%で、42.2%は相談できる人がいないと言っています。貧困は将来の不安として語られていますが、現在実際に起こっていることで、貧困の連鎖が大きな問題です。現在生活保護を受けている人の親は4人に1人は生保を受けており、母子世帯ではその割合は4割に上ります。

 「もっと勉強しておけばよかった」「資格を取っておけばよかった」と言われるかもしれませんが、彼らの学歴は中卒が2割で高卒以下が8割を占めます。現在、日本全体では97%か98%は高校に行っています。残りの2%に不利益が集中しているのです。「働いていれば食っていける」「親がいるなら頼れるはずだ」という2つの神話は今の社会では崩れてきています。

貧困者を襲う5つの排除とボロボロのセーフティネット

 どういう人が貧困まで行ってしまうのでしょうか。貧困者は5つの排除にさらされます。教育、企業福祉、家族福祉、公的福祉、自暴自棄になってしまった自分自身です。日本の戦後を何が支えたのかというと、企業と家族です。公的福祉がまともに機能したことはありません。企業は終身雇用で、住宅問題にしても会社の寮からアパートへ、一軒家へと企業の保障があったので、政府の住宅政策の貧困さが表に出てくることはありませんでした。家族福祉の一例でいえば、結婚前は父の収入で、結婚後は夫の収入で暮らす女性が多くいたのです。今は若い人たちがポッと社会に出て、企業や家族が守ってくれないのですから貧困になるのは当然です。若い人たちは生保を受ける方法も知らないし、サラ金についても教わっていない、丸裸で隙だらけです。そうならない人が多いから貧困は自己責任みたいに思われていますが、彼らは貧困になって当然です。

 日本にはセーフティネットが3層ありますが、みんなボロボロです。まず、失業手当ですが、以前は80%の人が受けていましたが、今では二十数%に落ちています。国民健康保険は保険料を滞納し、資格証になって10割負担です。35万人が医療を受ける機会を奪われ、29人が死亡しています。最後の生活保護ですが、行っても追い返されるのです。これを「滑り台社会」と呼んでいます。一度転んだら最後、底まで行ってしまうのです。第4のセーフティネットが刑務所です。法務総合研究所の調査では、65歳以上の約7割がお金に困って再犯し、刑務所に戻っています。神社の賽銭箱から150円盗った人もいます。法務総合研究所は「再犯の背景は経済的に不安定なことなど。司法の枠を超えた対策が必要だ」と指摘しています。

何ができるか?

 さて、これに対して何ができるかですが、政策レベルでは財源が問題にされます。日本のGDPはドイツ+イギリス+デンマークの3国分もあるのに社会保障支出額はGDP比17.5%で、EU平均の26.2%に8%も及びません。EU平均並みにするにはあと43兆円必要です。拉致被害者の100家族に100億円を使うことについて、「そんな金はどこにあるの?」と言った人はいません。高額所得者の所得税が減税されましたが、そこに財源論は出てきません。母子家庭や弱者が使う時に限って「そんなお金、どこにあるの?」と言うのです。政治家は財布のひもを握っていて、お金の配分をできる権限も持っています。自分はここには出さないと決めています。自分は議員年金をもらうのに。

最低生活費を知ろう

 個人レベルではまず、ご自分の家庭の最低生活費を知りましょう。これをほとんど誰も知らないんですね。つまり憲法25条を知らないということです。東京都の最低賃金は20円上がって739円です。最低賃金には関心があっても最低生活費を知らず、厚労省が生活保護より低い賃金で暮らしている人もいるんだから生保を減らそうとしていることに対しては、「自分は関係ない」と思っている人が多いです。ところが、このことは我々の生活に直結しているのです。4点問題があります。

1.生保の収入が減っています。すでに老齢加算、母子加算が削られ15%減りました。今回全体を減らそうとしています。最低所得で暮らしている人の所得より生保の方が高いから減らそうとしています。最低所得の人というのは3人世帯で教育費が月740円しかないのです。60歳以上の一人世帯では食費は月22000円で、一食200円ということになります。生保がその人たちの所得に比べて高いから減らそうというのです。本来、そちらを引き上げるべきです。

2.就学援助を受けている世帯の4分の1の世帯が生保の1.1倍から1.3倍の収入で暮らしています。生保が下がれば、就学援助の水準も下がり、都立高の減免も下がります。生保と連動して水準が下がるとお金を払わなければならなくなり、医療難民、介護難民が進み、少子高齢化がますます進みます。厚労省が少子高齢化を推進しているのです。そうしておいて消費実態調査をして、またそれが下がっていれば、さらに生保を下げます。これを「貧困化のスパイラル」と呼んでいます。

3.生保が下がると生保より低い人が最低生活基準をクリアしたことになり、国は責任を取らなくてよくなります。生保基準の引き下げは大きな問題なのに、多くの人は自分たちの問題ととらえていません。

4.国は最低生活費について国民に知らせていません。広報に生保の金額の計算方法が載ったことがありません。「知らしめず、寄らしめず」は江戸時代のことです。まずは自分の家庭のその金額を知りましょう。

労組の再生

 社会的レベルのこととして、労組の再生があります。グッドウィルユニオンは、不当天引きである「データ装備費」全額返還を求めて裁判を起こしました。エム・クルーユニオンは、不当天引き分を1回の交渉で会社側に「返す」と言わせました。これは申し開きをしようがないので認めざるを得ないのです。こんな違法行為を今まで誰も指摘しなかったのでしょうか? ひとりで言ってもダメだったが、組合を作って言ったら認めました。日雇い派遣会社は次々と不当天引き分の返還を認めてきています。派遣ユニオン、ガテン系連帯、フリーター労組などが立ち上がっており、労働におけるセーフティネットを張りなおそうとしています。

北九州市を刑事告発

 北九州市では生保が受けられずに3年連続で餓死者が出ました。2005年にはあまり取り上げられませんでしたが、2006年には大きな反響があり、なんとかしなくちゃという人が現れました。今年7月に亡くなった人については対策会議で検証しました。一部屋根が崩れ、壁も落ち、ガラスもない吹きさらしの家に住んでいました。この人については北九州市を刑事告発しました。

 北九州市では、生保にかける予算は年間300億円と決め、それ以上は絶対に出さないということで、毎月の数値を市長に報告していました。面接は係長級の面接主査が行い、人事異動評価のひとつとしていたのです。こういうやり方が全国的になってきています。

反貧困助け合いネット

 社会保障のネットとして反貧困助け合いネットを立ち上げました。月300円積み立てて、給与補償として10000円、無利子貸付で10000円、計20000円を貸します。生活を立て直せる金額ではないのですが、それだけのお金がどこからも出てこない。わずか1万、2万を貸してくれるのはサラ金だけなのです。サラ金は10万貸してくれと言えば、50万貸して多重債務に追い込みます。この程度の助け合いすら世の中にはないのです。

 6か月積み立てて1800円、それで2万円を貸したらまわらないだろうと言われますが、まわると思っています。自分は借りないという人にも支援的な意味で入ってもらって、ワーキングプア同士かつ社会全体の助け合いとしたいと思っています。

 「もやい」は何百人のアパートの保証人になっています。そんなことをしていたら大変なことになるぞと言われましたが、95%はちゃんと生活しています。低所得者に対する偏見があるのです。「あうん」は自分たちで仕事を作ろうということで、便利屋・リサイクルショップをやっています。

 児童虐待と貧困はつながっており、虐待の家庭には生活保障が必要です。DVで母子家庭になって、パートになって、クビになり、生活保護を拒否されて、多重債務になって……というと行政は縦割りなので、全体を見ることができません。我々もその点、気をつけなければなりません。(胸のバッジを指して)これはおばけの「ヒンキー」です。貧困はあるのにないと思われています。つまり「おばけ」です。世の中の人が関心を持ってくれれば、「ヒンキー」は成仏してくれると思っています。

質疑応答

1.企業福祉の後退はなぜ起こったと思われますか? 有効な政策は?

 一言で言えばグローバリゼーションでしょう。95年に経団連が新時代の日本的経営という方針を出しました。雇用を、長期技能蓄積型(終身雇用)、技能活用型(IT技術などの派遣)、雇用柔軟型(いつでも使い捨てられ、便利に使える雇用)に分けるものでした。80年代に円高バブルで外国人労働者が入ってきて、フィリピン、イラン、バングラと閉めたり開けたりして単純労働力を得ていましたが、最終的に外国に頼るのはやめ日本の若者にやってもらおうとなって、それ以降その通りに進んでいます。大企業が生き残るには人件費切り下げしかないとし、自己責任論を免罪しました。日本社会が生き残るにはこれしかないとし、社員の面倒をみるのは会社の責任ではないとしました。

 また、地方への大型店の進出によって、地方商店街がシャッター通り化し、昔ならそこに吸収されていた若者がフリーターとして漂流し始めました。地方の商店街は地域コミュニティの入り口でもあり、一種の企業福祉が行われていましたが、それが失われました。こういうことがいろんなレベルで起こってきたと思います。

 対策ですが、当り前の福祉国家をめざすしかないと思います。私は正規雇用の復帰は必ずしも望ましくないのではないかと考えています。日本は賃金依存度が高く、社会保障が弱い社会です。働いた賃金がたくさんないと生活が回らない。収入はそんなになくても社会保障でやっていけるというのが望ましいと思います。どこかで何かしらの歯止めにひっかかるのが福祉社会というものです。

2.最低生活費の計算方法を教えてください。

 これが結構細かいランクに分かれていて複雑なのです。日本全国を6つのエリアに分けて基本額を設定しています。世帯の人数によって、また、年齢によっても違います。私は23区に38歳で一人暮らしをしていますが、その場合は137400円です。医療費はただです。私の本『貧困襲来』にソフトがついていますが、「もやい」のHPにもありますので自由に使ってください。

3.エム・クルーユニオンについてもう少し話して下さい。

 エム・クルーとの折衝で解決したのは不当天引き分の500円だけです。建設現場に派遣労働者を派遣することは今でも禁止されているのに、「請負」と偽装して派遣しています。私が派遣された現場は初めてで私一人で、そこで業務を請け負ってるという理屈はどうしても無理なのに、「問題ない」と言い張っています。エム・クルーはたいして大きな会社ではないので、行政指導が入ったらつぶれる可能性もあり、そうなると働いている人はどうなるか? そう考えると難しい面もあります。

 派遣法を99年以前に戻そうという運動もあります。民主党が徐々に案を作っています。派遣法の規制法案を出したいということと、偽装請負を合法化してしまえという勢力と、民主党、自民党がどう動くかによって、どうなるかわかりません。結局やれることをやれるようにやるしかないと思っています。
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by lumokurago | 2007-11-24 20:52 | JANJAN記事
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